2026年9月12日に行われた、FASHION FRONTIER PROGRAM 2026の中間審査。
16名のセミファイナリストは、それぞれが約1か月半のエデュケーションプログラムを経て深めてきた社会への問いと、それをどのように衣服として表現しようとしているのかをプレゼンテーションしました。
すべての発表を終えたあと、審査員による審議が行われました。
そこで話し合われたのは、単に「どの作品が優れているか」ということだけではありません。
なぜ、その素材を使うのか。
個人的な経験を、どのように社会へ開いていくのか。
興味深いコンセプトを、どう衣服として成立させるのか。
そして、まだ完成していない表現の、どこにこれからの可能性を見るのか。
16名のプレゼンテーションをめぐる議論からは、ファッションを評価するときのさまざまな視点が浮かび上がってきました。


審議の中で何度も立ち返ることになったのが、作品の背景にある必然性でした。
環境に配慮した素材だから。
新しい技術だから。
社会的に重要なテーマだから。
それだけでは、ファッションとして表現する理由にはならない。
なぜ自分がそのテーマに向き合うのか。なぜその素材でなければならないのか。そして、なぜそれを衣服として誰かの身体に届けるのか。一方で、自分自身の経験から始まった問いには、その人にしか持ち得ない強さがあります。今回のプレゼンテーションでも、家族との記憶、働くこと、身体に対して感じてきた違和感、自分が暮らしてきた土地や文化など、個人的な経験を起点とする表現が多く見られました。審議でも、そうした個人的なストーリーと社会への視点が結びついていることに可能性を見いだす意見がありました。
ただし、個人的であること自体が作品の強さになるわけではありません。自分自身の経験をどこまで掘り下げ、それを自分だけの物語に閉じることなく、他者が考えることのできる問いへと開いていけるか。
そこには、もう一段階のリサーチや、自分とは異なる経験や歴史への視点が必要になることもあります。中間審査では、セミファイナリストそれぞれの問いが、個人から社会へとどこまで広がっているのかが見つめられていました。
もう一つ、審議の中で繰り返し議論されたのが、アイデアと最終的なアウトプットとの関係です。
とても興味深いリサーチがある。
素材の選び方にも可能性がある。
語られているストーリーにも共感できる。
それでも、「それが最終的にどのような衣服になるのか」がまだ見えないケースもあります。反対に、すでに衣服として強い印象を持つものがあっても、その形がコンセプトを十分に伝えているのか、さらに発展させる余地があるのではないか、といった議論もありました。
FFPにおいて、問いを持つことと、それをファッションで表現することは切り離せません。
言葉ではなく、素材やシルエット、身体との関係によって何を伝えるのか。
リサーチやコンセプトを、最終的に「着るもの」へと変換できるのか。
中間審査というまだ制作途中の段階だからこそ、現在の完成度だけではなく、その間にある距離をこれからどう埋めていくのかも、大切な判断軸となっていました。


その一方で、現在の完成度だけで判断しないことも、今回の審議で繰り返し語られていました。
技術的にはまだ課題がある。
コンセプトは抽象的で、最終形が見えていない。
自分一人では実現することが難しい。
そうしたプロジェクトであっても、それだけで可能性が閉ざされるわけではありません。
異なる技術を持つ人と協働することで実現できるかもしれない。フィードバックを受けて、短期間のうちに大きく表現を変えることができるかもしれない。
実際に、8月のプログラム開始時から中間審査までの約1か月半で、表現を大きく発展させたこと自体が評価されたケースもありました。
完成したものを見るのではなく、変化の途中を見る。それは、FFPが作品を選ぶだけでなく、人を育てるプログラムでもあるからこその視点です。
「いま何ができているか」だけではなく、「ここから何を学び、どこまで行くことができるか」。審査員は、その両方を見ながら16名の表現について議論していました。


今回のセミファイナリストの中には、3Dプリンターなどのデジタル技術を取り入れた提案もありました。そこで議論されたのは、単に「新しい技術を使っている」ということではありません。
技術によって、誰がものづくりに参加できるようになるのか。
つくり方を共有することで、デザイナーと使い手の関係はどう変わるのか。
一人ではできないことを、他者との協働によって可能にできるのか。
技術そのものの新規性よりも、その技術によってどのような関係や仕組みをつくろうとしているのかが注目されました。同時に、素材を研究する力と、実際に衣服をつくる力は必ずしも同じではない、という指摘もありました。
すべてを一人でできる必要はありません。
自分にはない技術を持つ人とどう協働するのかまで含めてデザインすることも、これからのデザイナーに求められる力なのかもしれません。
審議では、社会的なテーマやシステムの提案だけでなく、「最終的にそれが美しいものになるのか」「人が身につけたいと思うものになるのか」という視点も繰り返し登場しました。
社会への問いが深いことと、ファッションとして魅力的であること。そのどちらかを選ぶ必要があるわけではありません。素材、色、形、身体にまとったときの佇まい。それらもまた、言葉とは異なる方法で問いを伝えるための重要な要素です。
興味深いアイデアを持っていても、衣服になった瞬間にその問いが弱くなってしまうこともある。反対に、強い美しさが、言葉だけでは届かなかった問いを他者へ届けることもあります。だからこそ、「何を考えているか」と同じくらい、「それがどのような形として現れるのか」が問われています。


16名について一人ひとり議論していく中で、審議はやがて、個々のプロジェクトを超えたテーマへと広がっていきました。
生成AIが急速に発展し、文章や画像だけでなく、デザインや映像、音楽など、さまざまな創造の領域に入り始めている現在。そんな時代に、人間がものをつくる意味はどこにあるのでしょうか。
議論の中で出てきたのが、「失敗」という言葉でした。人間は、素材に触れ、試し、思ったようにいかず、やり直します。その失敗の中から、最初には想像していなかった表現を発見することもあります。
また、手仕事には身体があります。素材に触れ、集中し、疲れ、休みながら、時間をかけてつくる。そこには、完成した作品だけからは見えない、人間の身体と時間が費やされています。
一方で、デジタル技術を排除すれば人間らしい創造を守れる、という単純な話でもありません。今回の提案の中には、デジタル技術を使うことで身体的な制約を越えたり、知識を共有したり、他者とともにものをつくる可能性を提示するものもありました。
手仕事か、テクノロジーか。
そのどちらかを選ぶのではなく、テクノロジーによって、人間と人間、人間と素材、人間と社会の間にどのような関係をつくるのか。16名の表現について議論することは、いつの間にか、これからの創造そのものについて考えることにつながっていました。
中間審査で選ばれた8名は、12月12日の最終審査に向けて、ここから本格的な作品制作に入ります。
しかし、今回の審査で大切だったのは、8名を選ぶことだけではありませんでした。16名それぞれの表現を前に、何がすでに形になっていて、何がまだ足りないのか。そして、その「まだ足りないもの」が、これからどのように変わっていく可能性を持っているのか。
審査員から投げかけられた問いは、ファイナリストだけではなく、16名それぞれがこれから制作を続けていくための問いでもあります。
自分自身の経験を、どう社会へ開いていくのか。
コンセプトを、どう身体にまとう表現へと変えるのか。
技術を、何のために使うのか。
そして、AIによって「つくる」という行為そのものが変わろうとしている時代に、自分はなぜ、ファッションをつくるのか。
中間審査を終えて残ったのは、ひとつの答えではなく、次の制作へとつながる、いくつもの問いでした。


FOLLOW US
●○━━━━━━━━━━━━━━○●
最新情報は、FASHION FRONTIER PROGRAMのInstagramでも発信していますので、是非フォローしてお待ちください。
▶︎▶︎FFP公式Instagram https://www.instagram.com/ffp.jp/
パートナー企業:株式会社ゴールドウイン、セイコーエプソン株式会社、株式会社 大丸松坂屋百貨店、YKK株式会社
連携機関 / Collaborating Institution:MoN Takanawa: The Museum of Narratives
後援:環境省