
てん-めん
1.物がまつわりつくこと。からみつくこと。
2.情緒が深く離れがたいこと。また、そのさま。
精選版 日本国語大辞典
制作のきっかけは、祖母がタンスに遺したハンカチをふと解いたことだった。
折り目の整ったハンカチの端から横糸を引きだすと、とたんに生地が引きつった。それでも一本一本糸を引きだし続けると、フリンジのように残った縦糸が作業机のうえに揺れて、細やかな色の重なりを作りだした。引きだされ毛羽立った横糸がそこにまつわりつき、さらなる肌理と色合いを付け加えていく。この重なりあう糸の塊にふしぎな愛おしさを覚えて、私は手を動かしつづけた。
このとめどもない作業に黙々と取りくむ中で、これまで無意識の底に沈んでいた祖母の記憶が、ぽつりぽつりと浮かんでは消えていった。
西日に照らされ台所に立つ後ろ姿
壁越しに届いた喧嘩の声
のあとのテレビの音
聞けなかった想い、言えなかった言葉
穏やかな記憶もあれば、そうでないものもある。けれど、こうして布に向きあい過去を想い起こすときには、擦れて痛んだ記憶もそこに滞ることなく、前後の記憶と絡まりあいながらその手触りと色合いを変えていくようだった。
心の中でわだかまっていた過去がすっきり解消されるわけではない。けれど、胸の内からつど引きだされてくる記憶のかけらに触れつづけるうちに、それらが絡まり、ちぎれ、もつれあって、私の過去はテクスチャーを変えていった。
心に纏(まつ)わりついて離れない記憶、その表情を変えゆく過去を纏(まと)って、私は生きていく。
素材:布団用シーツ、カタン糸、水溶性不織布
Photography by YASUNARI KIKUMA / ©︎ FASHION FRONTIER PROGRAM

行き場をなくした無数の古衣に滲んだ
女たちの想い
わたしはその布のなかに
宿っていた想いを
止まっていた時を
解きほぐし 紡ぎなおし
ひとつの形に編みなおすことで
どこかに継いでいきたいとおもった
***
日々の制作のなかで、よそから買ってきた素材を、やすく、多量に消費していくことに違和感を抱えていた。そんな想いを周りに漏らすうちに、いらなくなった布をゆずり受ける機会が増えていった。
——知人の実家のクローゼットには、介護施設へ入居することになった母が残したという、花柄のスカーフやレース、ドレスのようなブラウスが数え切れないほどに眠っていた。ほとんど着られる機会もないままにひきだしの奥へと取り残されていたこれらの服は、結婚をして、友達もいない土地で家事、育児に明け暮れるようになった日々のなかで、少しでも自分の気持ちを明るくするために集めていたものなのだという。それを身につけている時間だけでなく、手に入れたときの高揚感が、母の人生を支えてくれていたのだと知人は語ってくれた。
——山梨県の古民家に残されていた半纏の裏地を覗いてみると、そこには色鮮やかな生地がパッチワークされていた。冬の寒さを乗りこえるための実用的な服の、誰にも見えない裏側に隠れたあしらいをふと目にして、愛おしさを感じた。かつては養蚕を営んでいたというその家で、自分の気持ちを高めるためにチクチクと縫う女性の姿が目に浮かぶ。
一人の母として、一人の妻として生きつつも、衣服を通じて「一人の女」としても生きようとした彼女たちの声が聞こえてくるようだった。
装うことで強くあろうとし、装うことに安らぎを求めた。一着一着に染み込んだ彼女たちの想いを痛切に感じた。
時代の奔流のなかで、持ち主と離れ、行き場を失ったものたち。そのなかに止まっていた時間をほぐすように、それら古衣を解き、裂き、撚りをかける。
そうして紡いだ糸を、自分の手で一本一本編み込んでいく作業は、単にリサイクルとしてではなく、そこに宿った悲しみや寂しさといった想いを解き、紡ぎなおし、次の世に継いでいくための時間のようにも思えた。
時代や場所 立場を越えて
多くの女性が身にまとってきた想い
その痛みを その内なる強さを そのやさしさを
私も身につけたい
素材:廃棄されそうになっていた衣服、半纏などの生地、廃材など
Photography by YASUNARI KIKUMA / ©︎ FASHION FRONTIER PROGRAM