FASHION FRONTIER PROGRAM 2026に参加する16名のセミファイナリスト。
作品のドローイングや、作品を象徴するイメージとともに、それぞれのバックグラウンドや制作への関心、そして今回の作品を通して社会へ投げかける「問い」をご紹介します。
異なる経験や視点を持つ16名が、どのような想いから制作に向き合っているのか。ぜひご覧ください。

アンジェラ・ウヤ / ケニア
英国とケニア、異なる文化的背景の中で育ち、ケニアのルーツを自身の世界の見方の中心に据えてきました。近年、再びケニアで過ごした経験を通して、東アフリカの視点からアフロ・モダニズムと改めて向き合い、それを固定された歴史的なものではなく、変化し続ける、生きた現代の文化として捉えるようになりました。
現在は、東アフリカに古くから伝わるクラフトの伝統に光を当てながら、現代のアフリカの人々に語りかけると同時に、それらを現代のグローバルな文脈へと再解釈するファッションに関心を持っています。特に、伝統的なパターンメイキングや、ビーズワーク、テキスタイルに見られる反復するかたちに着目し、そこに宿る記憶やリズム、意味を探求しています。
リサーチに基づくデザインとストーリーテリングを制作の軸とし、自身のブランド「Janus Studios」を通して、ファッションを、探求や人とのつながり、そして新たなあり方を想像するための場として捉え、制作を行っています。
作品へ込めた「問い」
現代のファッションは、東アフリカの創造性とアフロ・モダンなアイデンティティを、グローバルな視点の中で新たな価値として提示できるだろうか。

バルバラ・ペレルマン / アルゼンチン
アルゼンチン・ブエノスアイレス出身のテキスタイルデザイナーです。2019年、息子の誕生を機に、パートナーとともにパタゴニアの小さな町、ビジャ・ラ・アンゴストゥーラへ移住しました。ブエノスアイレスを離れたことで、生活にも制作にも大きな変化が生まれ、時間や人との関係、日常のささやかな営みに、これまでとは異なる視点で目を向けるようになりました。
これまで絵画、ドローイング、テキスタイルデザイン、芸術理論、文章表現など、さまざまな分野を学んできました。知識は人と共有され、それぞれの手によって変化していくことで、より豊かなものになると考えています。また、母親になったことや、家族から離れた土地で暮らす経験を通して、ケアや忍耐、コミュニティ、協働、支え合うことの大切さについても考えるようになりました。
パタゴニアでの暮らしは、自身の身体や周囲の環境との関係にも変化をもたらしました。デザイナーとして、ものがどのようにつくられ、技術や知識が人から人へどのように受け継がれていくのか、そして素材が時間や使われ方を通してどのように物語を宿していくのかに関心を持っています。日常の小さな出来事が、私たちの創造のあり方をどのように変えていくのかを探求しています。
作品へ込めた「問い」
衣服は、香りが忘れかけた記憶を呼び覚ますように、作り手の存在を宿すことができるだろうか。

成田英至 / 日本
クリエイションにおける「しくみ(機能美)」と「かたち(感覚美)」が相互に影響し合うことで生まれる「美しさの循環」を軸に、ファッションの制作活動を行っています。
名古屋モード学園、coconogaccoでファッションデザインを学んだ後、アパレルOEM企業にて洋服の企画デザインや生産管理を経験。衣服の造形や感覚的な美しさだけでなく、それを支える構造やシステムの重要性に関心を持ち、Webエンジニアとしての経験も重ねてきました。
現在は情報科学芸術大学院大学(IAMAS)に在籍し、衣服や身体の「ふるまい」や造形が、身体感覚をどのように拡張・変容させるのかをテーマに制作・研究を行っています。身体と衣服の関係性を問い直しながら、身体の実感やアイデンティティがどのように立ち上がるのかを、ファッションとメディアアートの視点から探求しています。
作品へ込めた「問い」
私たちは、変化し続ける身体と世界の「うつろい」を、いまも感じ取ることができているのだろうか。

髙平ふみ / 日本
幼少期から、触感や人の視線、表情、沈黙などに強く反応し、社会を肌や身体で感じるような経験を重ねてきました。そうした感覚を通して、人が他者との関係や環境の中でどのように変化していくのかに関心を持つようになりました。
父の死をきっかけに、自分自身や家族の内側へと意識を向けるようになり、それまでの職を離れて服作りを学び始めました。その後、OEM企業で企画デザイナーとして働き、ファッションの商業的な構造を経験する一方で、人間の感情や身体の複雑さが均質化されていくことへの違和感を抱くようになりました。
現在は、これまで多様な人種、年代、ジェンダーの人々との対話を通して感じてきた、人間の曖昧な存在感に着目。生地加工や染色を用いた衣服制作を通して、身体的・概念的な両面から人間の存在や身体について探求しています。
作品へ込めた「問い」
社会の「常識」によって形づくられる私たちの身体や自己認識を、衣服は問い直すことができるだろうか。

片岡弘生 / 日本
愛知県出身。20代前半は3DCGデザイナーとして展示会用映像などの制作に携わった後、物理的なものづくりを志し、エスペランサ靴学院で製靴技術を学びました。卒業後は「ここのがっこう」で制作を続けながら、YUIMA NAKAZATOをはじめとする東京コレクションブランドのシューズ製作に携わりました。
2015年にはInternational Talent Support(ITS)のアクセサリー部門、アートワーク部門にノミネートされ、アートワークアワードを受賞。翌年、自身のブランド「HIROKI KATAOKA」を立ち上げ、TRADING MUSEUMでの別注展開などを行うほか、エスペランサ靴学院でデザイン講師も務めました。
その後、体調不良によりブランドを休止し、長期療養を経験。療養後は「grounds」で約2年間デザイナーとして勤務しました。現在はファッションの現場から少し距離を置いた生活を送りながら、これまで培ってきた3DCGと製靴、デジタルとフィジカル双方の経験を背景に、あらためて自身の制作と向き合っています。
作品へ込めた「問い」
創造は消費の暴走を止められるのか。

ジェシカ・ノエミ・プショ / アルゼンチン
アルゼンチン出身のアーティスト、ファッションデザイナーであり、「BIOTICO」を主宰しています。ラテンアメリカ最大級のインフォーマルマーケット、ラ・サラダで育ち、幼少期から生地や衣服、路上での商い、廃棄される素材、そして働く人々の姿に囲まれてきました。こうした経験から、ファッションを単なる衣服ではなく、社会・文化・経済とつながるシステムとして捉えるようになりました。
2014年にブエノスアイレス大学を卒業して以来、テキスタイルの実験やアップサイクル、クラフトを通して、見過ごされたり廃棄されたりする素材が持つ可能性を探り、新たな価値や意味へと変換する制作に取り組んでいます。
また8年以上にわたり、知的障害のある成人を支援する施設と協働し、医療・教育の専門家とともに、リサイクルテキスタイルを共同制作するインクルーシブなプログラムを継続しています。「BIOTICO」では、こうした活動とファッション、テキスタイルアート、インスタレーションなどを通して、デザイン、環境への責任、共同制作を結びつけ、尊厳や自律性、社会的包摂、人と人とのつながりを育む表現を探求しています。
作品へ込めた「問い」
循環型ファッションは、廃棄物を新たな価値へと変え、誰もが創造に参加できる社会を実現できるだろうか。

礒元アリシア茉彩 / 日本
文化やアイデンティティ、一人ひとりが持つ背景や物語に関心を持ちながら、服づくりに取り組んでいます。母がケニア出身であることから、自身のルーツをテーマに制作することも多く、ファッションを通して自分らしさや多様な文化、価値観を表現することを大切にしています。
制作では、再構築やリメイク、立体的なシルエットを生み出す構造的なデザインに関心を持ち、見た目の美しさだけでなく、その背景にあるコンセプトや物語を重視しています。また、音楽やアート、特にaespaやXGが持つ近未来的な世界観からも影響を受けています。
自身のルーツと現代のカルチャーを行き来しながら、異なる文化や価値観をつなぎ、新たなアイデンティティのあり方を提示するファッションを模索しています。
作品へ込めた「問い」
なぜ私たちは、外見だけで人を判断し、その背景にある文化や歴史を見落としてしまうのだろうか。

植村美奈 / 日本
神戸芸術工科大学でファッションテキスタイルを学び、布地や素材が持つ質感や背景を通して、人間の感情や社会構造を表現するための研究・制作に取り組んでいます。
特に関心を持っているのは、家事や育児、介護など、日々の暮らしを支えながらも社会の中で十分に可視化・評価されていない労働です。素材の「硬さ・柔らかさ・透明性」といった異なる性質の対比を用いながら、見過ごされてきた労働に費やされる時間や、その尊さを衣服として表現しています。
衣服を単なるデザインとして捉えるのではなく、素材の背景や表現を通して、私たちの暮らしや社会のあり方に問いを投げかけることを目指しています。
作品へ込めた「問い」
衣服は、ケア労働が残す見えない痕跡を可視化し、私たちが「当たり前」としてきた労働の価値を問い直せるだろうか。

廣澤那音 / 日本
6歳からクラシックバレエを始め、幼少期から長く舞踊と向き合ってきました。クラシックバレエの世界で周囲からの視線や「痩せた身体」という理想を強く意識する中、自身の身体との関係に葛藤した経験も、現在の制作につながっています。
一度バレエから離れた後も踊ることへの関心は続き、高校ではダンス部に所属。大学で服作りを学びながら、ヒップホップやジャズなどさまざまなジャンルのダンスを経験し、現在は再びバレエやコンテンポラリーダンスにも取り組んでいます。
舞踊を「身体そのものと向き合う行為」と捉え、これまでの身体経験を背景に、「身体を魅せること」「纏うこと」「動かすこと」への関心を軸として、衣服制作と身体表現の両面から身体とファッションの関係を探求しています。
作品へ込めた「問い」
身体の大きさや形に関わらず、すべての身体を美しいと捉える社会をつくることはできるだろうか。

ナタリー・フッテラー / オーストリア
オーストリアを拠点に活動するテキスタイルアーティスト、デザイナーで、現在はリンツ芸術大学でテキスタイル・アート・デザインを学んでいます。テキスタイルや衣服を通して、風景、素材、記憶、身体の関係性を探求しています。
自身の活動「Fabric of the Land」では、自然染色や土地の素材、地域に根ざしたリサーチを通して、場所や時間の痕跡を宿すテキスタイルを制作。風景を単に表現するのではなく、土、植物、鉱物、水、天候、太陽光などを、制作に関わる能動的な存在として捉えています。
ファッションを、生態系に関する知識や文化的な記憶、個人の物語を伝えることのできる媒体と捉え、人とその人が生きる土地とのつながりをあらためて生み出す衣服を探求しています。
作品へ込めた「問い」
ファッションは、土地や素材に刻まれた記憶を受け継ぎ、人と自然との関係を結び直す「生きたアーカイブ」になれるだろうか。

コイ アレキサンダー / アメリカ ・ カナダ
東京を拠点に活動するファッションデザイナー、教育者、再生型デザインの研究者です。アメリカ出身で、ファッションデザインを学んだ後、ロンドンのセントラル・セント・マーチンズで再生型デザインの修士課程を修了。ファッションを単なる「もの」の生産としてではなく、生態系や文化、素材との新たな関係性を生み出すものとして捉え、活動しています。
近年は大分県・国東半島を活動拠点のひとつとし、農家や職人、地域の知識を受け継ぐ人々と協働しながら、ファッションと農業、林業、儀礼、生態系のつながりを探求。フィールドリサーチやシステム思考、素材実験を通して、時間とともに変化し、生態系と関わり合う素材やデザインのあり方を研究しています。
作品へ込めた「問い」
ファッションが生物多様性を「損なわない」だけでなく「回復させる」存在になるとき、人と素材、生態系の関係はどう変わるだろうか。

室 諭志 / 日本
クリエイティブの現場でディレクターとして働く傍ら、2024年よりcoconogaccoで学び、アーティストとしての制作活動に取り組んでいます。
表現の軸となっているのは、幼少期から親しんできた特撮文化と、自然豊かな環境で触れてきた植物や昆虫です。社会のひずみや時代の不安を怪物として表現する「特撮的制作プロセス」を、自身の恋愛観や人生観、セクシャリティといった個人的な記憶や感情と結びつけ、怪物や儀礼的な道具を思わせる「異装」を制作しています。
また、仕事を通してアイヌ民族やXRアートに関するプロジェクトにも携わり、「科学の発展と社会的責任」「人とAIの共生」「経済的合理性からの脱却」といった社会的なテーマにも関心を持っています。個人的な経験や物語を起点に、それらをより大きな社会の物語へとつなげる表現を模索しています。
作品へ込めた「問い」
人も感情も移ろいゆくのなら、衣服も永遠に残る必要はあるのだろうか。消えゆくものの先に、何が残るのだろうか。

中尾詩夏 / 日本
1999年横浜生まれ。多摩美術大学でプロダクトデザインを学び、2022年の卒業後はフリーランスのグラフィックデザイナーとして、Webサイトやポスター、各種グラフィックなど幅広いデザインに携わっています。一方で、「ここのがっこう」「me」「amit」でファッションデザインを学び、衣服の制作にも取り組んできました。
2022年にパキスタン人の夫と結婚して以降、パキスタンをたびたび訪れる中で、限られた環境や素材を活かして柔軟に工夫する「Jugar(ジュガール)」という文化に影響を受けました。また、オランダでの生活を通して、街並みや色彩、人々の働く姿など、異なる土地の日常や価値観にも触れてきました。
現在は、グラフィックとファッションという異なるデザイン領域で培った経験と、海外で出会った文化や暮らしの中にある創意工夫を背景に、制作活動を行っています。
作品へ込めた「問い」
「正しさ」や「完成度」を求めるのではなく、今あるもので生み出す創造性は、ファッションの価値観を変えられるだろうか。

福山颯大 / 日本
現代のファッションデザインを、衣服という領域だけで完結するものではなく、社会や他分野のデザインと深く関わるものとして捉えています。サステナビリティや社会的責任など、ファッションを取り巻く課題に向き合いながら、異なる領域や社会構造を掛け合わせることで、既存の価値観に問いを投げかける表現を目指しています。
これまで、社会問題や日常に潜む矛盾を衣服の構造や機能へと変換し、「服とは何か」をあらためて考える作品を制作してきました。
現在は学校を休学し、全国各地の工場を訪ね、ものづくりの現場やプロダクトデザインについて学んでいます。実際の生産現場や社会の仕組みに触れながら、ファッションという枠組みそのものを問い直し、再構築するための表現を模索しています。
作品へ込めた「問い」
日常に潜む小さな誤解や対立を可視化することで、ファッションは平和について考えるきっかけを生み出せるだろうか。

小薗輝久 / 日本
小学校から高校まで硬式野球に打ち込み、その中で培った身体感覚や粘り強さを、自身のものづくりの土台としています。大学を離れた後は、医療業界の滅菌サービスの現場で3年間勤務。その経験を経て、あらためて「衣服が持つ表現の力」と向き合うことを決意し、大阪文化服装学院のスーパーデザイナー学科でファッションを学びました。
在学中は、高度な服作りの技術と職人的な手仕事を軸に、さまざまな実験を重ねながら自身の表現を追求。現在は、自身のブランド「KOZONO TERUHISA」を立ち上げ、制作活動を行っています。
スポーツ、医療、ファッション。一見異なるこれらの経験を自身のものづくりの背景として捉え、言葉で説明するのではなく、衣服そのものから感じ取られる「語らないアイデンティティ」として表現することを目指しています。
作品へ込めた「問い」
情報もモノも瞬く間に消費される時代に、手仕事はその時間と価値をどこまで引き延ばすことができるだろうか。

佐野結翔 / 日本
現在、文化ファッション大学院大学でファッションデザインを学び、コンピューターニットを専門に研究しています。ファッションに進む以前はヘアメイクを学び、高校生の頃から美容の世界に触れてきました。
そこで出会ったのが、一人ひとりに寄り添い、一過性ではなく長期的な視点で対話を重ねていく「サロン」という考え方です。この精神性は、現在の服づくりにもつながる自身の原点となっています。
衣服制作を始めるきっかけとなったのは、美容師の国家試験の勉強をする傍ら、学校で資料として使われていた廃棄予定のウェディングドレスを用いて服を制作したことでした。その経験を自身にとっての最初のコレクションと捉え、「サロン」の精神を根底に持ちながら、現在はコンピューターニットを通して新たな衣服のあり方を探求しています。
作品へ込めた「問い」
無機質なモビリティやテクノロジーは、衣服へと姿を変えることで、人を包み、感情を生む存在になれるだろうか。
それぞれの「問い」が、これからの制作を通してどのような作品へと形づくられていくのか。
16名のこれからの挑戦に、ぜひご注目ください。
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