ファッションは、原料、使用中の洗濯、廃棄の点で環境と密接に関わる。また発電はファッション同様、生活に欠かせないものでありながら、一方で環境に害を与えうるものである。FASHION FRONTIER PROGRAM発起人の中里唯馬が、生態学者/国立環境研究所生物多様性領域室長の五箇公一氏と、「みんな電力」で自律分散型電力を提供する株式会社UPDATER の福留聖樹氏を迎え、これからのファッションと環境について話し合った。
中里唯馬(以下、中里):「生物多様性」という言葉の理解は進んでいます。しかしそれがなぜ重要かは、曖昧な人も多いと思います。生物多様性とファッションを考える上で、まずは改めて、ご説明をお願いできますか?
五箇公一氏(生態学者/国立環境研究所生物多様性領域室長 以下、五箇):「生物多様性」と聞くと多くの人が考えるのは、種の多様性だと思います。いろんな種類の動植物の存在が重要だという発想です。しかし、「生物多様性」はそれだけを指す言葉ではありません。「生物多様性」は、遺伝子のレベル、種のレベル、生態系のレベル、景観のレベルで考える必要があるのです。
例えば蝶で、遺伝子の多様性が低くて同じ模様の個体ばかりの集団と、多様性が高くて多様な色や模様の個体が集まった集団を想定してみます。環境変化がない場合は、遺伝子の多様性が低い蝶集団の方が、仲間がすぐに認識できるので繁殖しやすく、有利です。しかし地球の環境は常に変動しています。新しい環境として天敵が登場した場合は、同じ模様ばかりの集団は一度食べられるとすぐに覚えられて食べ尽くされるので、絶滅するリスクは高くなります。一方、様々な模様がいれば逃げ隠れできるので、集団として生き延びることができ、新しい環境に耐性を持つ種へと進化できるのです。
遺伝子の多様性が低くて種として絶滅するものが増え、種の多様性が低くなると生態系が保ちにくくなります。種の多様性が高ければ1つの種の昆虫がいなくなっても、他の昆虫が代わりになることができますが、種の多様性が低いと1つの種の昆虫がいなっただけで、それを食べる蛙が絶滅し、その蛙を食べる鳥が絶滅し……、と影響が簡単に波及してしまうからです。
しかも、水も空気も食べ物も、すべて生態系が作っています。さまざまな生態系がさまざまな機能を持っているおかげで、地球上には安定した環境があるのです。それなしに人間は生きていけません。さらに、遺伝子の多様性が生み出す生態系の多様性は、景観の多様性にも繋がってきます。
海外旅行に行くと楽しいのは、見たことのない、触ったことのない、着たことのない、食べたことのないものがあるからです。それは日本と違う環境から生まれたものですし、元をただせば、遺伝子・種・生態系・景観の多様性があるから環境の違いが生まれるのです。つまり、人間社会の持続的発展の基盤として、生物多様性が重要なんです。
五箇公一氏(生態学者/国立環境研究所生物多様性領域室長 以下、五箇):「生物多様性」と聞くと多くの人が考えるのは、種の多様性だと思います。いろんな種類の動植物の存在が重要だという発想です。しかし、「生物多様性」はそれだけを指す言葉ではありません。「生物多様性」は、遺伝子のレベル、種のレベル、生態系のレベル、景観のレベルで考える必要があるのです。
例えば蝶で、遺伝子の多様性が低くて同じ模様の個体ばかりの集団と、多様性が高くて多様な色や模様の個体が集まった集団を想定してみます。環境変化がない場合は、遺伝子の多様性が低い蝶集団の方が、仲間がすぐに認識できるので繁殖しやすく、有利です。しかし地球の環境は常に変動しています。新しい環境として天敵が登場した場合は、同じ模様ばかりの集団は一度食べられるとすぐに覚えられて食べ尽くされるので、絶滅するリスクは高くなります。一方、様々な模様がいれば逃げ隠れできるので、集団として生き延びることができ、新しい環境に耐性を持つ種へと進化できるのです。
遺伝子の多様性が低くて種として絶滅するものが増え、種の多様性が低くなると生態系が保ちにくくなります。種の多様性が高ければ1つの種の昆虫がいなくなっても、他の昆虫が代わりになることができますが、種の多様性が低いと1つの種の昆虫がいなっただけで、それを食べる蛙が絶滅し、その蛙を食べる鳥が絶滅し……、と影響が簡単に波及してしまうからです。
しかも、水も空気も食べ物も、すべて生態系が作っています。さまざまな生態系がさまざまな機能を持っているおかげで、地球上には安定した環境があるのです。それなしに人間は生きていけません。さらに、遺伝子の多様性が生み出す生態系の多様性は、景観の多様性にも繋がってきます。
海外旅行に行くと楽しいのは、見たことのない、触ったことのない、着たことのない、食べたことのないものがあるからです。それは日本と違う環境から生まれたものですし、元をただせば、遺伝子・種・生態系・景観の多様性があるから環境の違いが生まれるのです。つまり、人間社会の持続的発展の基盤として、生物多様性が重要なんです。
中里:みんな電力 は、今までの中央集権的に大きな電力会社が発電して、それを使用者にひとまとめに送電するという電力のあり方を変えて、個人レベルで作った電気を他者に売れるようにした企業ですよね。SNSや種の多様性が生み出す生態系の機能に似て、繋がりを感じる仕組みですね。
福留聖樹さん(株式会社UPDATER 以下、福留):そうなんです。自分が信頼できる人から情報や物を得たいという気持ちはいつの時代もあったと思いますが、テクノロジーの進歩によって実現できるようになりました。私たちは、誰もが電力が作り、売ることができる社会を実現したいと思っています。「環境を考えると、地産地消が重要だ」と言いますが、地域社会や地域経済が自立するためには、地域で取れる野菜を食べるだけではなく、エネルギーも自立する必要があります。社会課題を解決していきたいという気持ちで事業を行なっています。
中里:一つの種が絶滅しても他の種がその代わりができる豊かな生態系と同様に、電力を様々な場所で作れると、大きな自然災害などで発電所で事故が起きても、他のところから電力が供給できますよね。それは持続可能性を高めることでもありますね。
地産地消という言葉が出ましたが、今ではファッションでも、コットンはインドで生産され、それを中国で紡績し、日本で加工して生地にして、縫製はベトナムで、販売はアメリカで……と、物ができるまでに、いろんな国や地域を越えて作られるというのが当たり前になっています。しかし、世界中で人やものが行き来することで、外来種やウイルスが国や地域を超えて移動してしまって、問題となっていますよね。生物の世界では、地産地消にどんな意義があるのでしょうか。
五箇:生き物は地域に分散し、環境に応じて進化しています。また、個体には移動能力がありますから、ある程度行き来して遺伝子を交流させて、遺伝子を多様にしています。そういったネットワークで地方に分散している状況をメタ集団構造というのですが、それがあるから、どこかの集団が潰れても、新しい遺伝子が他の集団から補給されて回復するので持続性が確保されるんです。そして、ある程度独立して、それぞれの環境に応じて独自に進化するから、全体としては多様性が維持されているんですね。
同じことが、人間社会に置き換えても言えると思います。それぞれの環境特性に応じて自立した分散社会を市町村レベルで作れていれば、何かあってもすぐに他から補給できるし、その土地に合った文化や産業が自然と発展するため、国全体でみると多様性のある地域がたくさんある状態になるのです。
今のグローバリゼーションの最大の問題は、生産性と効率性を考えてどんどん最適化した結果、すべての産業が分業化され、資源を掘る場所、加工する場所、消費する場所と別れてしまったことです。その結果、地域は元気を失いましたし、コロナで大きな影響を受けました。世界中の医療用品の供給が中国の工場に集中していたため、中国経済がストップしたことで世界中が医療用品不足になって適切な処置ができず、封じ込めが遅れて医療崩壊を起こしたんですよね。自国の中である程度の生産供給体制を確保できていれば、こんなことにはならなったはずです。
コロナが収束しつつあるなかで、今度は海外食品物価が上がっています。その理由は、経済が動き始めた中国・アメリカで船舶を独占してしまっているからです。日本は食物自給率が低いので、こうなるとあっという間に値上がりするんですよね。危険な状況です。自国で食品・物品の供給体制を維持していくという当たり前の社会、分散型社会を維持するのが非常に重要で、我々一般人ができる一歩が、資源やエネルギーも含めた地産地消なんです。
地産地消だと、匿名性が高い大都市で起こりがちな無責任な行動はとりにくくなります。ゴミの捨て方が悪ければ後ろ指を指されるし、コロナウイルスでも感染者が出ればすぐに周知、注意喚起できます。ムラ社会のそういった側面を息苦しいと感じて、大都市に若い人が出ていくことが続いていましたが、結果的にそれが持続性を産まない社会を作ってしまったということを、私たちはコロナを機に学ばなければいけません。
福留聖樹さん(株式会社UPDATER 以下、福留):そうなんです。自分が信頼できる人から情報や物を得たいという気持ちはいつの時代もあったと思いますが、テクノロジーの進歩によって実現できるようになりました。私たちは、誰もが電力が作り、売ることができる社会を実現したいと思っています。「環境を考えると、地産地消が重要だ」と言いますが、地域社会や地域経済が自立するためには、地域で取れる野菜を食べるだけではなく、エネルギーも自立する必要があります。社会課題を解決していきたいという気持ちで事業を行なっています。
中里:一つの種が絶滅しても他の種がその代わりができる豊かな生態系と同様に、電力を様々な場所で作れると、大きな自然災害などで発電所で事故が起きても、他のところから電力が供給できますよね。それは持続可能性を高めることでもありますね。
地産地消という言葉が出ましたが、今ではファッションでも、コットンはインドで生産され、それを中国で紡績し、日本で加工して生地にして、縫製はベトナムで、販売はアメリカで……と、物ができるまでに、いろんな国や地域を越えて作られるというのが当たり前になっています。しかし、世界中で人やものが行き来することで、外来種やウイルスが国や地域を超えて移動してしまって、問題となっていますよね。生物の世界では、地産地消にどんな意義があるのでしょうか。
五箇:生き物は地域に分散し、環境に応じて進化しています。また、個体には移動能力がありますから、ある程度行き来して遺伝子を交流させて、遺伝子を多様にしています。そういったネットワークで地方に分散している状況をメタ集団構造というのですが、それがあるから、どこかの集団が潰れても、新しい遺伝子が他の集団から補給されて回復するので持続性が確保されるんです。そして、ある程度独立して、それぞれの環境に応じて独自に進化するから、全体としては多様性が維持されているんですね。
同じことが、人間社会に置き換えても言えると思います。それぞれの環境特性に応じて自立した分散社会を市町村レベルで作れていれば、何かあってもすぐに他から補給できるし、その土地に合った文化や産業が自然と発展するため、国全体でみると多様性のある地域がたくさんある状態になるのです。
今のグローバリゼーションの最大の問題は、生産性と効率性を考えてどんどん最適化した結果、すべての産業が分業化され、資源を掘る場所、加工する場所、消費する場所と別れてしまったことです。その結果、地域は元気を失いましたし、コロナで大きな影響を受けました。世界中の医療用品の供給が中国の工場に集中していたため、中国経済がストップしたことで世界中が医療用品不足になって適切な処置ができず、封じ込めが遅れて医療崩壊を起こしたんですよね。自国の中である程度の生産供給体制を確保できていれば、こんなことにはならなったはずです。
コロナが収束しつつあるなかで、今度は海外食品物価が上がっています。その理由は、経済が動き始めた中国・アメリカで船舶を独占してしまっているからです。日本は食物自給率が低いので、こうなるとあっという間に値上がりするんですよね。危険な状況です。自国で食品・物品の供給体制を維持していくという当たり前の社会、分散型社会を維持するのが非常に重要で、我々一般人ができる一歩が、資源やエネルギーも含めた地産地消なんです。
地産地消だと、匿名性が高い大都市で起こりがちな無責任な行動はとりにくくなります。ゴミの捨て方が悪ければ後ろ指を指されるし、コロナウイルスでも感染者が出ればすぐに周知、注意喚起できます。ムラ社会のそういった側面を息苦しいと感じて、大都市に若い人が出ていくことが続いていましたが、結果的にそれが持続性を産まない社会を作ってしまったということを、私たちはコロナを機に学ばなければいけません。

中里:ファッションでも地産地消が重要だとは思います。しかし一方で、ファッションの世界ではいまだにMade in Italy、Made in Franceのタグひとつで価値が上がるような側面もあります。地域で作られたものの価値をあげるために、何かアイデアはありますか?
五箇:敗戦後の日本では異質性に対する憧れもあって、海外ブランドの価値が高かったかもしれません。しかしグローバリズムが進む今、日本の地方で作られたものの方が質もいいし、Made in Japan に対する価値観も高くなってくるのないでしょうか。
生き物の世界は希少性が経済価値を生みます。だからこそ密猟とか密売が起こってしまうのですが、やはり希少性が高いものは価値が高まりますよね。万人受けして安い服を作るのではなく、地域の独自性・固有性を生かした、その地域でしか入手できない特異なものにするとか、限定何着にするとかして希少性を高めればいいのではないかと思います。
福留:地域には、もともと持っている自然や文化で、生かせそうなものがたくさんありますよね。以前に佐賀県武雄市にある武雄温泉の御船山楽園ホテルに行ったことがあります。そのホテルの敷地内には国登録記念物で、江戸時代にできた「御船山楽園」があるのですが、最新のテクノロジーを活用したシステムやデジタルコンテンツの開発を行う制作会社のteamLabが、「御船山楽園」の自然を生かしたアートが共存する空間を作っているんです。また、群馬県高崎市の榛名神社は、信仰とデザインがマッチングしていて洗練されているんですよ。これはファッションに直結する例ではありませんが、日本にはこういった、すばらしいものが残っていますし、コロナによって地域がもともと持つものが見直されている時期だと思います。そこに、ヒントがあるのではないでしょうか。
また、私はファッション産業にも携わっていたことがあるのですが、日本ならではのやり方があると感じています。日本には物を集め、大切にする文化があるんですよね。日本の工場には、世界ではもう作られていないミシンや織機がまだ残っています。それらの機械は世界から見ると、大きな価値があるのです。
産地に眠っている機械を可視化し、データ化して、この商品はユニオンスペシャルのミシンで作られた商品です、ションヘルの織機で作られた商品ですと、商品とデータで紐づけて世界に打って出れば、大きな価値を作り出せる可能性はありそうだと思います。
五箇:敗戦後の日本では異質性に対する憧れもあって、海外ブランドの価値が高かったかもしれません。しかしグローバリズムが進む今、日本の地方で作られたものの方が質もいいし、Made in Japan に対する価値観も高くなってくるのないでしょうか。
生き物の世界は希少性が経済価値を生みます。だからこそ密猟とか密売が起こってしまうのですが、やはり希少性が高いものは価値が高まりますよね。万人受けして安い服を作るのではなく、地域の独自性・固有性を生かした、その地域でしか入手できない特異なものにするとか、限定何着にするとかして希少性を高めればいいのではないかと思います。
福留:地域には、もともと持っている自然や文化で、生かせそうなものがたくさんありますよね。以前に佐賀県武雄市にある武雄温泉の御船山楽園ホテルに行ったことがあります。そのホテルの敷地内には国登録記念物で、江戸時代にできた「御船山楽園」があるのですが、最新のテクノロジーを活用したシステムやデジタルコンテンツの開発を行う制作会社のteamLabが、「御船山楽園」の自然を生かしたアートが共存する空間を作っているんです。また、群馬県高崎市の榛名神社は、信仰とデザインがマッチングしていて洗練されているんですよ。これはファッションに直結する例ではありませんが、日本にはこういった、すばらしいものが残っていますし、コロナによって地域がもともと持つものが見直されている時期だと思います。そこに、ヒントがあるのではないでしょうか。
また、私はファッション産業にも携わっていたことがあるのですが、日本ならではのやり方があると感じています。日本には物を集め、大切にする文化があるんですよね。日本の工場には、世界ではもう作られていないミシンや織機がまだ残っています。それらの機械は世界から見ると、大きな価値があるのです。
産地に眠っている機械を可視化し、データ化して、この商品はユニオンスペシャルのミシンで作られた商品です、ションヘルの織機で作られた商品ですと、商品とデータで紐づけて世界に打って出れば、大きな価値を作り出せる可能性はありそうだと思います。
中里:データで生産に使った機械を可視化し、商品に紐づけるという話から、生産者と消費者の繋がりについてお聞きしたくなりました。ファッション産業では現在、海外で生産を進めることが多いんです。作る人と着る人の距離がどんどん離れて、どこの誰が作っているかわからないし、それが当たり前になっています。すると、手放すことも抵抗がなくなってしまうんですよね。誰が作っているのかを可視化し、「人が生み出している」という実感を届けることで、その服を手にするありがたみ、暖かさを伝えたいものだと思うのですが、どんな方法が考えられるでしょうか。
福留:みんな電力ではブロックチェーンを使うことで、商品やサービスを誰がいつどんなものを使って生み出しているのかを改ざんできない情報として記録できます。そして、それを消費者が「おもしろく選ぶための体験」として、広めたいんです。たとえば、好きな小説家の家の屋根で発電した電気を買いたい、卒業した学校のソーラーパネルで発電した電気を買いたいという気持ちを持つ人はたくさんいると思うんですよね。
また、企業や自治体レベルで再生エネルギーに転換しようという動きがあちこちで見られるようになりましたが、単に供給源を再生エネルギーに変えただけでは、本当に社会の課題解決につながっているか、使っている人には実感が持てませんよね。そこで、みんな電力では、再エネの発電事業者さん、例えばそれが農家さんだったりすると、単に電力がこの農家さんのところで作られていると伝えるだけではなく、その農家さんの生産している野菜まで一緒に扱ったり、野菜のビジネス展開のためのアイデア出しイベントまで開いたりと、関われる範囲を広げています。
福留:みんな電力ではブロックチェーンを使うことで、商品やサービスを誰がいつどんなものを使って生み出しているのかを改ざんできない情報として記録できます。そして、それを消費者が「おもしろく選ぶための体験」として、広めたいんです。たとえば、好きな小説家の家の屋根で発電した電気を買いたい、卒業した学校のソーラーパネルで発電した電気を買いたいという気持ちを持つ人はたくさんいると思うんですよね。
また、企業や自治体レベルで再生エネルギーに転換しようという動きがあちこちで見られるようになりましたが、単に供給源を再生エネルギーに変えただけでは、本当に社会の課題解決につながっているか、使っている人には実感が持てませんよね。そこで、みんな電力では、再エネの発電事業者さん、例えばそれが農家さんだったりすると、単に電力がこの農家さんのところで作られていると伝えるだけではなく、その農家さんの生産している野菜まで一緒に扱ったり、野菜のビジネス展開のためのアイデア出しイベントまで開いたりと、関われる範囲を広げています。

中里:ところで、五箇先生はダニの専門家でもありますよね。ファッションデザイナーとして、私は自然のものからインスピレーションを得ることが多いのですが、五箇先生のダニの研究にも刺激を受けました。ダニは非常に小さいので重力の影響を受けず、装飾的な要素が大きいそうですね。一般的に動物の体は、身を守るとか食べ物を取る等の機能を重視しているはずですよね。それなのにダニは装飾性を持っているのが、ファッションは装飾性と切り離せないと考える私にとっては興味深かったんです。
五箇:ダニはあまりにもちっちゃいので、重力や風の抵抗などを考えずに自由奔放に進化を続けているんです。体長より長い毛が生えていたり、花びらのような毛が生えていたりします。ダニには目があるわけではないから、そういう装飾があっても何の機能にもなっていないのですが、環境の中で邪魔にもなっていないから淘汰されずに残っている状態だと思われます。
一般的に動物の世界では、装飾には機能があります。孔雀のオスの鮮やかな羽は、メスに対する「こんなにでっかい羽を持っていても俺は大丈夫」というアピールです。人間がそれをやってもおもしろくないし、しんどいだけですよね。装飾性は遊びでなくてはいけません。
人間のファッションに遊びの装飾性が存在できるのは、社会にゆとり、持続性、安定性があるからです。ファッションが豊かであることは、社会の豊かさを表しているとも言えるし、ファッションは社会を豊かにする駆動力にもなるかもしれないとも思います。人間は自分の体の形態や色を変えることはできないけれど、ファッションがあることで個性を表すことができますよね。そこにファッションの可能性、機能があると、生物的な視点で見て思っています。
中里:ミリタリーファッションのことを考えながらお聞きしていました。ミリタリーファッションは戦うため、生き残りのためのものですから、機能に振り切っています。一方女性のファッションは、クリノリンやハイヒールなど、平和な環境でなかったら逃げ遅れてしまうような装飾性がある。平和じゃないと装飾性は成り立たないんですよね。
五箇:男性は闘争の世界に身を置くことが多かったので、その名残がファッションにもあるんですよね。女性のファッションが羨ましいほど、男性のファッションは機能に縛られたままです。これからダイバーシティの社会になって、男性のファッションがどれだけ自由になれるのか、楽しみです。
五箇:ダニはあまりにもちっちゃいので、重力や風の抵抗などを考えずに自由奔放に進化を続けているんです。体長より長い毛が生えていたり、花びらのような毛が生えていたりします。ダニには目があるわけではないから、そういう装飾があっても何の機能にもなっていないのですが、環境の中で邪魔にもなっていないから淘汰されずに残っている状態だと思われます。
一般的に動物の世界では、装飾には機能があります。孔雀のオスの鮮やかな羽は、メスに対する「こんなにでっかい羽を持っていても俺は大丈夫」というアピールです。人間がそれをやってもおもしろくないし、しんどいだけですよね。装飾性は遊びでなくてはいけません。
人間のファッションに遊びの装飾性が存在できるのは、社会にゆとり、持続性、安定性があるからです。ファッションが豊かであることは、社会の豊かさを表しているとも言えるし、ファッションは社会を豊かにする駆動力にもなるかもしれないとも思います。人間は自分の体の形態や色を変えることはできないけれど、ファッションがあることで個性を表すことができますよね。そこにファッションの可能性、機能があると、生物的な視点で見て思っています。
中里:ミリタリーファッションのことを考えながらお聞きしていました。ミリタリーファッションは戦うため、生き残りのためのものですから、機能に振り切っています。一方女性のファッションは、クリノリンやハイヒールなど、平和な環境でなかったら逃げ遅れてしまうような装飾性がある。平和じゃないと装飾性は成り立たないんですよね。
五箇:男性は闘争の世界に身を置くことが多かったので、その名残がファッションにもあるんですよね。女性のファッションが羨ましいほど、男性のファッションは機能に縛られたままです。これからダイバーシティの社会になって、男性のファッションがどれだけ自由になれるのか、楽しみです。
中里:以前に国立新美術館で行われていた、「FASHION IN JAPAN1945-2020」展で、戦後から今までのファッションを見たのですが、長く続くブランドと、消えていってしまうブランドがあることに気づきました。なぜ生き残っているのか、なぜ途中で消えてしまったのかを考えていて、生物の種が繁栄に、ブランド繁栄のヒントがあるのではないかと感じたのですが、いかがでしょうか。
五箇:昆虫というものは、基本構造が6本足の節足動物のまま、4億年の間、変わっていません。持続性を持っていると言えますよね。またシーラカンスやゴキブリのように、3億年から見た目が変わっていない種もいます。しかし、「昆虫」を見ても、その内部で種はさまざまな変遷があって、いろいろな変化をしています。シーラカンスやゴキブリなど、見た目が変わっていない種も、遺伝子自体はどんどん進化していて、環境に適応しているんです。外観は同じでも、内部が環境に適応して変わっていることが特徴で、それが持続性をもたらしています。ファッションブランドも、環境に応じて変化しているところが生き残っているのではないでしょうか。
中里:それはありそうですね。また、「FASHION IN JAPAN1945-2020」展でも、一つの時代のなかで異彩を放っているブランドがありました。そのブランドはトレンドを踏まえていなかった可能性がありますが、トレンドが変わった瞬間に変異種的なブランドだけが生き残ることもあるのかな、とも思ったんです。
五箇:そうですね。大きな環境変化はいつ起きるかわからないから、ある意味では無駄に見えるもの、のりしろ的なものを残せるセンスや寛容力が、ブランドの生き残りには重要なのでしょうね。ダニの装飾的な美しさに関しても、あれは今の時点では何の役にも立っていませんが、生物学者としては環境変化の中で何かに生かされるかもしれないということを信じていたいと思っています。
五箇:昆虫というものは、基本構造が6本足の節足動物のまま、4億年の間、変わっていません。持続性を持っていると言えますよね。またシーラカンスやゴキブリのように、3億年から見た目が変わっていない種もいます。しかし、「昆虫」を見ても、その内部で種はさまざまな変遷があって、いろいろな変化をしています。シーラカンスやゴキブリなど、見た目が変わっていない種も、遺伝子自体はどんどん進化していて、環境に適応しているんです。外観は同じでも、内部が環境に適応して変わっていることが特徴で、それが持続性をもたらしています。ファッションブランドも、環境に応じて変化しているところが生き残っているのではないでしょうか。
中里:それはありそうですね。また、「FASHION IN JAPAN1945-2020」展でも、一つの時代のなかで異彩を放っているブランドがありました。そのブランドはトレンドを踏まえていなかった可能性がありますが、トレンドが変わった瞬間に変異種的なブランドだけが生き残ることもあるのかな、とも思ったんです。
五箇:そうですね。大きな環境変化はいつ起きるかわからないから、ある意味では無駄に見えるもの、のりしろ的なものを残せるセンスや寛容力が、ブランドの生き残りには重要なのでしょうね。ダニの装飾的な美しさに関しても、あれは今の時点では何の役にも立っていませんが、生物学者としては環境変化の中で何かに生かされるかもしれないということを信じていたいと思っています。
中里:遺伝子の話からブロックチェーンまで、多岐にわたるお話で非常に勉強になりました。ファッションには課題はあるが、希望もあるのだと感じています。一方で、壮大な話が多く、自分のクリエーションに落とし込んでいくのが難しそうだと思う人もいると思います。最後に一言、何かアドバイスをいただけますか?
五箇:ハードルがあるから人間は飛ぼうとするところがあります。今回、環境を意識したファッションという、非常に難しい課題でのプロジェクトの募集だったのに、多くの人が非常に個性豊かなアイデアをもって応募してくれました。そこに希望を感じています
新しいものを作るときには、今まで接してこなかった人の話を聞き、そこからインスピレーションを受けることが大事です。きっと何かしらのヒントがあるはずですし、人間には異質なものをヒントにできる感性や機転があります。
また、種の多様性を見ても思うのですが、個性が非常に大事です。人真似ではいけません。新しさを作り出していくこと自体が進化なのです。環境が重視される中、今はファッションに淘汰圧がかかっている状態です。プレッシャーの中でどうやったら人の目を引きながら個性を発揮できるか。うんと悩んで考えてほしいと思います。
福留:私は五箇先生マニアなところがあるのですが、五箇先生の言葉にファッションに生かせるものがあると感じています。日本には自然順応型の文化があります。必要以上にものを採取しないで自然と共生する文化があるんですよね。それを生かすことで、環境問題は解決ができるはずです。既にここにある日本の文化や個性を生かして、ファッションをおもしろくしていってほしいですね。
五箇:ハードルがあるから人間は飛ぼうとするところがあります。今回、環境を意識したファッションという、非常に難しい課題でのプロジェクトの募集だったのに、多くの人が非常に個性豊かなアイデアをもって応募してくれました。そこに希望を感じています
新しいものを作るときには、今まで接してこなかった人の話を聞き、そこからインスピレーションを受けることが大事です。きっと何かしらのヒントがあるはずですし、人間には異質なものをヒントにできる感性や機転があります。
また、種の多様性を見ても思うのですが、個性が非常に大事です。人真似ではいけません。新しさを作り出していくこと自体が進化なのです。環境が重視される中、今はファッションに淘汰圧がかかっている状態です。プレッシャーの中でどうやったら人の目を引きながら個性を発揮できるか。うんと悩んで考えてほしいと思います。
福留:私は五箇先生マニアなところがあるのですが、五箇先生の言葉にファッションに生かせるものがあると感じています。日本には自然順応型の文化があります。必要以上にものを採取しないで自然と共生する文化があるんですよね。それを生かすことで、環境問題は解決ができるはずです。既にここにある日本の文化や個性を生かして、ファッションをおもしろくしていってほしいですね。
(Text:フェリックス清香)