建築家と宇宙飛行士と考える、ファッション業界での循環型システムのヒント

Circular System
Dialogue
2021/11/10

建築家と宇宙飛行士と考える、ファッション業界での循環型システムのヒント

大量消費・大量生産による地球環境の悪化が注目される中で、さまざまな産業で各社が資源を循環させるシステムを考え始めている。ファッションではどんな方法が考えられるだろうか。建築家の妹島和世氏、宇宙飛行士の山崎直子氏をゲストに迎え、ファッションデザイナーでありFASHION FRONTIER PROGRAM発起人の中里唯馬がお話を伺いながら、発想のヒントを探った。

それぞれの仕事とファッションとの関わり

中里唯馬(以下、中里):私たちはファッションの新天地を切り開くことを目指して、プログラム名に「フロンティア」という言葉を入れています。人類は発展を目指して未開の地、つまりフロンティアを開拓することで発展してきました。一方で、住む場所を広げた結果、各地の資源を収奪し、もともとそこに住む人々の生活や文化、自然環境を破壊してしまったという歴史もあります。宇宙開発に関しても地球を捨てて新しい星での発展を目指すというイメージと捉えられることもありますよね。それでも、フロンティアを開拓すること、まだ見ぬ可能性を模索することは重要だと考えます。本日は住環境・宇宙というそれぞれの分野でフロンティアを切り開いてこられたお二人に、ご経験やご意見をお伺いして、私たちの抱える課題の解決のヒントを探っていければと思っております。

 

山崎直子(宇宙飛行士 以下、山崎)&妹島和世氏(建築家 以下、妹島):よろしくお願いします。

 

中里:山崎直子さんは 2001年に宇宙飛行士として抜擢され、2010年にスペースシャトルディスカバリー号に搭乗したのち、2011年にJAXAを退職なさった後は内閣府の宇宙政策委員会や一般社団法人Space Port Japan代表理事などをなさっています。また現在は、地球規模の環境問題解決のため英国ケンブリッジ公ウィリアム王子と王立財団によって2020年に創設された環境賞「アースショット賞」の評議委員や女子美術大学の客員教授をなさっているそうですね。

 

山崎:前回のアースショット賞のファイナリスト15名の中には日本の水をリサイクルする企業、株式会社WOTAも入っていて、とてもうれしく思いました。こういった持続可能な社会を達成する地上の技術と、宇宙開発によって生まれた技術を結びつけていくことも大切ではないかと考えています。また今は女子美術大学の客員教授をやっておりますが、電気通信大学の野嶋琢也准教授などと共同で、将来多くの人が「宇宙旅行」をする時代にどんな洋服が求められるかを議論して、試作を作ったことがあるんですよ。

 

中里:どんな服なのでしょうか。

 

山崎:白を基調に、なるべくユニセックスで動きやすいデザインにし、洋服につけたセンサーで心拍数や発汗量を調べることで宇宙酔いの兆候をとらえ、それをLEDライトなどで周りに伝えやすいようにした洋服です。

 

中里:おもしろいですね。後ほど宇宙空間での洋服のあり方などもお聞かせください。
鼎談のお相手のもうお一方の妹島和世さんは、日本建築学会賞やプリツカー賞、紫綬褒章などを受賞なさった建築家です。1987年に妹島和世建築設計事務所を設立なさり、1995年にSANAAを西沢立衛さんと共に設立なさいました。2010年には第12回ベネチアビエンナーレ国際建築展ディレクターを務められています。代表的な建築としては金沢21世紀美術館やルーブル美術館ランス別館などがあげられます。2017年に山形県で建てられた荘銀タクト鶴岡という劇場は有機的なフォルムで、私も訪れたことがあるのですが、隣接する国指定史跡の「庄内藩校 致道館」や山の稜線といった、環境を生かした設計が印象的でした。

 

妹島:自分の事務所を初めてもう35年くらい経ちました。ご紹介いただいた通り、建築の設計を専門としていますが、少しずつお声がけをいただいてプラダなどでドレスを作ったりと、ファッション分野での協業もさせていただいたりしています。

 

中里:これからの人間の暮らしを考える上で、今日は妹島さんがプロジェクトを通して大事になさっていることなどをお聞きして、これからのファッションのためのヒントを考えていけたらと思っています。

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宇宙船内での暮らしと循環

中里:江戸時代、日本では着物を非常にユニークな形で利用して、循環型システムを実現していました。着物を呉服屋さんで買った後破れてしまっても、着物は長方形でできているので破れたところを交換できました。街の至るところお直し屋さんがあり、繕うための古布も売っていました。そうやって長く着物として使い、着物として使えなくなったら雑巾やおむつなどにし、最後に燃やして灰にして、さらにその灰を畑の肥料にするという循環ができていたんですよね。着物は長く大切に着ることが当たり前とされ、役目を終えた布地も最後まで徹底的に有効活用されたんです。こういった循環の発想は限られた資源で生きていくためには重要だろうと思います。そこで山崎さんにお伺いします。宇宙船内では資源が限られていると思いますが、どのような暮らしをなさっているのでしょうか。

 

山崎:衣服に関しては残念ながらリサイクルができていません。江戸時代の方がよほど進んでいると思います。消臭効果のある銅を編み込んだ靴下や、和紙を編み込んで蒸れにくく消臭効果を持つ靴下、藍染で抗菌効果をもたしたポロシャツなど、なるべく長く使えるような技術は試行的に使ってはいますが、宇宙では水が貴重でかつ扱いが難しく洗濯ができないため、何日か続けて着て汚れてしまった後は、破棄してしまっています。ただ、今後は循環型の発想が必要でしょう。私が行った国際宇宙ステーションは地上400キロの高さなので、まだまだ地球から近く、宇宙食や洋服は地球から補給してもらえましたが、今後は月や火星を目指しています。そうなると地球からものを運ぶエネルギーが莫大に増えてしまうんですよね。そのため単純に廃棄しないで済むように、たとえば、水を使わない洗剤を開発する試みがあります。UVライトを当てることで菌の繁殖を抑えることも有効かもしれません。もっともっと循環型にしていかなければいけませんね。

 

中里:あまり意識していませんでしたが、たしかに宇宙では水は貴重ですよね。

 

山崎:そうなんです。トイレの小をリサイクルしてさせて飲み水として使うほど、水は貴重なのです。そして、リサイクル率をもっと上げる努力が続けられています。

 

中里:宇宙船の中の暮らしは地球の縮図だと言われることもありますが、衣服の洗濯による地球環境への負荷は大きいといいます。宇宙船用のソリューションが出てくると地球でも洗濯の回数が減らせるかもしれませんね。

日本の建築に見える循環

中里:宇宙船の暮らしは閉じた空間でのものでしたが、妹島さんの建築プロジェクトを拝見すると建物がそれだけで孤立しているのではなく、土地や環境や人々と対話しているように見えます。特に岡山県の犬島でなさったプロジェクトからそれを感じたのですが、妹島さんが建築なさるときに大切にしているのはどんなことでしょうか。

 

妹島:若い時から、建築は内部空間を作るものではあるけれど、内部空間と外部空間を分けるのではなく、風景の一要素として寄り添っていけるようなものを作りたいと考えています。犬島は2008年に初めて行ったのですが、住人58人くらいの、直径1キロ、1周回っても3キロぐらい、1時間で歩いて回れる小さな島なんです。歩いて回ると、ちょっと起伏があって、瀬戸内海が見えたり隠れたりして、とても魅力的なんですよ。福武財団さんから、この島をアートで元気にしたいと依頼を受けてギャラリーを作る機会を得たのですが、そこに変なものを作って雰囲気を壊したくないと思って、最初は途方に暮れました。

 

中里:そもそも島が魅力的だったので迷われたんですね。それでどうなさったんですか?

 

妹島:島を歩いているうちに、次第に「ここにあるもので作ろう、壊れてしまっているものに関しては、新しいものを持ってこよう」と思い始めたんです。車で通れない場所もあるので、自分たちが合理的だと思うような、真っ直ぐで大きな素材は使うことは意外と難しかったんですよね。島に使われているような、手で組み立てられる大きさや重さのものを繋いで、ちょっと曲がったものに作るの自然だと感じたんです。ギャラリーなので壁は作るのですが、大きな面がボーンと作るよりも、分節されたもののほうが良いと思いました。手で持てるぐらいのパーツだと島の暮らしに馴染むように感じられて、新しいものを使っても場合によっては使ってもいいと思えたんです。

 

中里:大きな新しいものをドンと持っていくのではなく、そこでの人の暮らしに馴染む形で、と考えられたのですね。

 

妹島:そうなんです。一つ目のギャラリーとして着手したのは割と状態のいい民家だったので、それをそのまま、できるだけ使おうと思いました。といってもずっと放置されていた木造建築だったので、そのまま使うのが安全かはわかりません。一度解体して水が入っていかないか、使えない部分がないかと調べたんです。すると、先程中里さんがおっしゃった、江戸時代の着物の循環システムに似たものが天井の構造材に見られたんです。

 

中里:何があったんですか?

 

妹島:構造材が、すでに古いものと新しいもので、継ぎ接ぎされて作られていたものだったんです。そこで、今まで継ぎ接ぎされてきたところに部分的にまた私が新しいものを入れて、構造材を作り直しました。木というのは、自分たちの手で継ぎ接ぎしながら引き継いでいける。そういう意味では鉄とかコンクリートに比べると、自分たちの手で扱いやすいんですね。もちろんそれぞれの素材に良し悪しがあるのですが、木造にはやわらかさがあって、日本、特に犬島のような小さなところでは合うと思います。

 

中里:では、新しい材料としても木材だったのですか?

 

妹島:瀬戸内海に大きなアクリルの工場があったので、アクリルも使いました。ピースを作って船で持ってきて、それを手で組み立てて使ったんです。犬島の人たちはほとんど自給自足的に自分たちの食べるものを自分の手で作って暮らしていらっしゃるんですが、その暮らしの一部にアートも入っていくようなものになりました。美術館だと展示替えがあって、それをどうやって隠そうかと思ったのですが、展示替えの様子も犬島の風景の一部になって、やってくるお客さんも一緒になって展覧会や風景を作る、しかもそれをやり続けるという、継続感のあるプロジェクトになったのが、おもしろい経験でした。

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宇宙船の中のゴミの行方

中里:先ほどの山崎さんのお話でも感じたのですが、地球という規模で見ると大きすぎて見えにくくなってしまうことが、島とか宇宙船の中といったサイズにしてみると、イメージがしやすくなって見えてくるものですね。妹島さんの「継ぎ接ぎされて使えなくなってしまったものは新しくした」という言葉でふと気になったのですが、宇宙船の中で出たゴミはどこにいくのでしょう。先ほど、汚れた洋服は破棄しているのが現状だというお話もありましたよね。何か最新の技術などで循環させているのでしょうか。

 

山崎:宇宙船内のゴミは案外知られていないのですが、意外と原始的な方法で処理しています。宇宙船のなかで出るゴミは、ゴミ袋に入れてできるだけコンパクトにまとめて、後で焼却しています。

 

中里:地球に持ち帰って焼却するのですか?

 

山崎:いえ、国際宇宙ステーションには数ヶ月に一度、無人の物資補給船が地球からやってくるんですが、必要な物資を引き取った後に今度はゴミを詰め直します。そして大気圏に突入する際に2、3,000℃の高熱になるので、補給船ごと全部一緒に燃えてしまうんです。壮大な焼却炉のようなものです。

 

中里:すごい! それは塵になってゴミは全て消えてしまうということなんですね。

 

山崎:そうなんです。もしかしたら流れ星のように地球から見えているものが焼却炉である可能性もあるんですよ。

 

中里:では、ゴミが出ないと言ってもいいのでしょうかね。

 

山崎:そうですね。でも本当はきちんと循環できるといいですよね。先ほどもお話しした通り、将来的には国際宇宙ステーションだけではなく、月や火星での滞在を目指しています。現地で燃やすという手もありますが、そうすると酸素を無駄にしたり、その星を汚染してしまったりする可能性もあります。また、先ほど江戸時代に着物は最後は灰にして肥料にしていたという話がありましたが、月に滞在するとなると、物資を補給するのにコストがかかりすぎるため、宇宙農業を考えなければならなくなります。そこで今、現地で必要な栄養素を全て賄えるようにするプロジェクトを農林水産省が始めています。今は人間の排泄物は、小以外は焼却してしまっていますが、それを肥料として使ったり、複数の作物を輪作して地力を保ったりして、持続可能な農業を考える取り組みです。

 

中里:地球での昔ながらの農法を宇宙で活用しているのですね。

 

山崎:そうなんです。またゴミに関しては極力出さない工夫をしています。例えば、食べ物は一度封を切ったら食べ切ることにしています。ティッシュなどは極力使わないようにしますし、歯磨きをした後も、宇宙船には流しというものがありませんし、ティッシュに出してもゴミを増やすだけなので、磨いた後は飲み込んでしまうんです。

建築とゴミと日本人の考え方

中里:宇宙でのゴミの話をお聞きしましたが、地球の建築にまつわるゴミについても気になってきました。日本では歴史的名建築であっても、老朽化した建物を完全に壊して、新しく建て直すことが多いように思います。一方で、ヨーロッパでは古い建築をリノベーションして、新しい要素を加えることが多いですよね。妹島さんの手掛けられたパリの老舗百貨店「サマリテーヌ」にしても、古い建築に新しいものが融合したデザインでした。どうしてこういった違いがあるのでしょうか。

 

妹島:そうですね。日本の伝統的な建築物は木造で、ヨーロッパのものは石造という違いがあります。どうしても木造だと燃えてしまいますよね。ただ、江戸野町を例にすると、建物自体は木造で燃えてしまうのだけれど、燃えてしまうことで街の循環という意味では機能していた面があります。また、先ほど犬島の例でもお話ししましたが、木そのものは継ぎ接ぎしながら使っていくというしなやかさもあると思いますね。

 

中里:なるほど。江戸の火事は悲劇でしたが、被害が発生するたびに組織を整え、街を整え、計画を整えるなど、街を刷新させて新しいものを生み出す効果はあったと言われていますね。

 

妹島:「循環」に関していうと、先ほど山崎さんが排泄物の再利用について話していらっしゃいましたが、犬島のプロジェクトでもトイレを循環型にしたのです。犬島はもともと下水管がないので、浄化槽に溜まったものを船で運んで処理しています。そういったやり方を使う普通のトイレもあるのですが、大の方を使ったら自分でおがくずを混ぜるトイレも作ったんです。最初はそういうトイレを作ることに少し抵抗があったのですが、排泄物を堆肥にして野菜を作って食べると、自分が循環の一部だとを感じることにつながるなと気づいたんですね。「循環」は抽象的に語られがちですが、山崎さんの宇宙での体験のように、自分の体が循環の一部になることをみんなが少しずつ考えると、人間が自然と寄り添っていける、一部になっていけると思います。

 

中里:確かに、江戸時代は着物だけでなく、食べ物と排泄物のそういった循環が普通に行われていたんですよね。

 

妹島:そうですね。江戸の木造建築も燃えてしまってゼロになるというよりは、灰にもなっただろうし、ソフト面での循環に繋がっていたとも言えます。一方でヨーロッパの建築に関しては、「石造だからずっと残っていて良い」と片付けてしまっていいのかなとも思うんです。例えば、2000年にミレニアムになるということで、ヨーロッパで各地の教会の壁を磨いたら、石が白くなって街が刷新したという話も聞きます。素材が残っていればいいという話でもないと思うんですね。「循環」はもっと広い関係性の中で考える方がいいのではないでしょうか。記憶に残るという方法もありますし、単に素材がなくなっちゃったから循環していないとは言えないと思います。

 

中里:なるほど。

 

妹島:それから日本人の伝統的な考え方として、お客さんが来た時にお座布団をひっくり返すだけで「新しくなった」とするようなところがありますよね。「忘年会」「新年会」といって12月になると一年を忘れて、1月に「新しくなった」という発想を持ちますよ。前のものと緩やかに繋がりながら新しく循環していくという発想が、日本には昔からいろんなところにあったのですよね。

さまざまな課題を抱える人類の未来

中里:宇宙船の暮らしや建築物を設計するときの背景にある考え方をお聞きして、「循環」に関してさまざまなヒントをいただきました。最後にお二人に大きな質問を投げかけたいと思います。
人間は、果たして様々な課題を乗り越えて、理想的な状態にたどり着くことができるのでしょうか。例えば、近い将来、例えば火星などに一般の人々が住むようになるとして、そこで人間が思い描く社会とはどんなものでしょうか。地球での過ちを繰り返さずに、理想的な世界を創り上げることができるのでしょうか。どんな視点からでも構いませんので、お二人のお考えをお聞かせいただければと思います。

 

山崎:非常に哲学的な、難しい問いですね。他の星に住むことを考えるのは一つの良い思考実験になると思います。ある星に新しく村を作るとしたらどんな文化や制度がいいか、仕切り直して考えられますよね。ただ、これは少しずつ進めることになります。私たちは他の星に行くことを非常に慎重に考えているのです。

 

中里:それはどうしてですか?

 

山崎:私たちはかつて、アフリカ、アメリカなどに出かけ、新天地を開拓するつもりで原住民の方々に現地にはない病気をうつすなどといった悪い影響を与えてしまった過去があります。月に関しては科学者の間で生命はいないとコンセンサスがとれているので、比較的気軽に物を持って行ったり持ち帰ったりしますが、火星の場合は小さなバクテリアや菌など、何らかの生命がいる可能性があります。火星には昔は川が流れていた痕跡がありますし、水が一部氷として残っていたりもするので、その中にいるかもしれないんです。その生命に地球から持って行った何かで悪影響を与えてはなりませんし、逆に地球を火星から持ち帰ったもので汚染することもあってはなりません。そこで物の持ち込み、持ち帰りは滅菌をして非常に慎重に行っています。今後火星に人類が行くとしても、少しずつ区画を区切って確認しながら進むことになるでしょう。

 

中里:過ちを繰り返さないようにやっているのですね。

 

山崎:そうなんです。その後は村を作ることに向かうのだと思いますが、先ほどの妹島さんからの犬島のお話を聞いて、循環型の社会を考えるときには、犬島ぐらいのサイズがやりやすいと思いました。ただ、もし一つの星に新しい村を作るとしたら、絶滅しないでやっていける最小単位が1000人と言われています。わりと大きな人数なので、文化人類学、社会学、歴史学の専門家など、さまざまな方といろいろな切り口から議論をする必要があります。それでモデルができたら、少しずつ地球にも反映するような形で理想的な社会を作っていくことができるのかなと思います。

 

中里:学者の方々は倫理観をもって未来の人類のあり方を考えていらっしゃるのですね。今は民間企業が宇宙開発に参入する時代なので、その辺りはみなで話し合った上で進められると良いと思いました。妹島さんはいかがでしょうか。

 

妹島:難しい質問ですね。まずは何が理想かをみんなで決めて、そこに到達できるようにするのは無理だと思います。先ほど山崎さんが絶滅しないための最小単位が1,000人とおっしゃっていましたが、1,000人もいればいろんな人が出てくると思うんです。満足を感じるものも違うでしょう。それでも、それぞれが違いながらも一緒にいた方がいいなと思える社会を、それも1,000人の人間たちだけではなく、自然も含めた大きな循環のなかで、失敗しながらいろいろな方法でやっていく。私たちはそうやって失敗しながらも、何か新しいことに大胆に挑戦してきましたし、そういうやっていかなくてはいけないと思います。

 

中里:現代社会ではプロセスが切り離されてしまっているので、自分が循環の一部になることをなかなか実感しにくいですよね。排泄物の話もそうですし、洋服も、農業から始まっていることがなかなかイメージしづらいです。しかし、島や宇宙船などといった小さい規模だと気づきやすく、それが非常に重要なことなのだろうと思いました。

 

妹島:やはり、一人一人が当事者意識を持てるような、気づきのきっかけがいろんなところにあるのが重要ですよね。食料も衣服もどこからどうやって届くのかわからないと、何か問題があることを知っても、誰かがなんとかしてくれるだろうと思ってしまいます。自分たちでなんとかする権利も義務もあるということに気づけるようになったら、もっと生きていることが楽しくなるだろうし、喧嘩もしながらわいわいやっていけるだろうと感じていますね。

 

中里:本当にそうですね。本日はこれからのファッションを考える上でも役立つお話を、どうもありがとうございました。

 

(Text:フェリックス清香)

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